コーティング効果向上と思わぬトラブルの発生を防止するには・・

コーティングの効果を向上させるためには、効果的な素材選定、処理前の加工と表面の状態が大きく関係します。同時に、これらの知識はトラブル回避のためにも大いに参考になると思います。
また、スムースに処理を進めるにあたり、事前に素材選定及び設計段階等の初期段階から打ち合わせさせて戴きたいと思います。コーティング効果を最大にする上で、下記に説明させていただくような理想的な形になるよう相談いただければ幸いです。
むろん、全てを理想的な状態にすることは難しいので、現実的なアドバイスも行えるよう具体的な事例を準備してお待ちしております。
貴社独自のケースに合わせた各種提案を担当営業から行わせていただきたいと思いますので、まずは下記ご覧戴き、ご質問、ご相談をメールもしくはファックス等でお送りください。お待ち申し上げております。


①PVDセラミックコーティングにおける対象鋼種

PVD法はSKH、SKD、ステンレス、アルミニウム合金、チタン、インコネル、ハステロイ、ステライト、超硬、サーメットなど広範囲な金属もしくはそれに類する素材にコーティングすることができます。亜鉛、鉛、真鍮など500度真空下でガスが発生する材質や、樹脂、セラミックなど絶縁物にはコーティングできません。
各種プロセスで用いられる金型は、プロセスごとでの適用方法、あるいは性能面によって種々異なるものの、表面改質技術を抜きにしては操業が困難なほど、利用範囲は拡大しています。ここでは、市場のニーズとしてのいっそうのコスト削減、生産性の向上、あるいは表面改質の低温度化などの指向に対して、プラズマ反応を利用した表面改質技術をベースとした複合処理を中心に最近の応用例を紹介します。


②表面は金属地肌が出ていること

介在物(表面の汚れ等)は前処理で除去されますが、ホモ処理(黒色)のように除去が困難なものがあります。コーティング必要部以外の介在物も処理時にアークダメージの原因となるため、全体的に表面は金属地肌が出ていることが望まれます。


③熱処理が十分であること

PVD法(処理温度約500℃)及び低温PVD法(同約230℃)の場合、①に記したような材料全般にコーティング可能です。ただし、工具、機械、金型部品として実用上使用されているのは、超硬、SKH、SKD、SUS420J2、プレハードン鋼などに集中しており、その理由としてコーティング処理温度で変寸、歪みが生じず、硬度低下が無いことが上げられます。
焼き入れ鋼の場合、複数回の焼戻し、サブゼロ処理など残留オーステナイト対策が十分に施され(処理による変寸防止)、焼戻し温度はコーティング処理温度+30度以上が安全です(処理による硬度低下の防止)。
SKHは一般的に560℃前後で焼戻しを行っているので、ほぼ無条件にPVDコーティングが可能です。しかし、SKDは180℃前後で焼戻しを行っているケースも多く、PVD法でコーティングを行う場合は予め530度前後で焼戻しを行うことが理想です。


④素材硬度は高いこと

素材硬度が低くても①に記したようにコーティングは可能ですが、素材が柔らかいと膜がすぐ傷んでしまい問題となってしまいます。単に離型、装飾が目的なら問題ありませんが、耐摩耗目的の場合素材硬度は高いほどコーティングの効果が上がります。超硬、SKH、SKD 、プレハードン鋼など(少なくともHRC40以上)が適しています。


⑤面粗度が良いこと

面に凸凹があると凸部の頂点から剥離が始まってしまい、膜が傷むケースが多く見られます。面粗度は高ければ高いほど膜の耐久性が上がります。


⑥圧入、焼バメなどが無いこと

PVDの場合、接合部の除去困難な油分などの不純ガス化成分がコーティング皮膜の生成に悪影響を及ぼすことがあります。やむを得ずコーティングする場合、追加費用がかかりますが、真空脱ガス炉で脱ガス処理を行い処理前に不純ガス化成分を取り除くことが出来ます。ただし、残留する可能性もあり、完全とはいえません。
また、熱膨張係数が大きく異なる場合、コーティング時にずれる可能性も若干ありますので注意が必要です。


⑦素材表面の金属疲労、残留応力が無いこと

PVDの場合、冷間で塑性加工を施した製品の曲げ部には注意を要します。(出来れば焼き鈍し処理を行う)。残留応力により変形が起きる場合があります。たとえば、薄板の表面を研磨しコーティングする場合、残留応力により反るケースがまれに発生します。
また、ごくまれにラップ仕上げ時の残留応力金属疲労が問題となることもあります。ラップ仕上げは極力素材表面に負担がかからない条件で行われることが好まれます。


⑧細穴、長穴(冷却水路など)のスケールが除去されていること

PVDの場合、細穴、長穴内のスケールは除去が困難である場合が多く、これがコーティング必要部からはずれていても異常放電の原因となったり、不純ガス成分となりコーティング皮膜の生成に悪影響を及ぼす原因となったりしています。できるだけ処理前にスケールの除去を行うようお願い致します。